AI名誉毀損の新法理はゼロだった。Googleの却下申立ては全部退けられ、訴訟は証拠開示へ
AI名誉毀損の新法理はゼロだった。Googleの却下申立ては全部退けられ、訴訟は証拠開示へ【2026年7月】

米デラウェア州上級裁判所は現地2026年7月24日、GoogleのAIが虚偽の記述を生成したとして争われている名誉毀損訴訟で、Google側の却下申立てを全部退けた。訴訟は証拠開示手続へ進みます。判決文35頁には、「AIのハルシネーションに責任が認められた」とも「プラットフォーム免責が崩れた」とも書かれていません。Section 230は一度も登場せず、Googleも持ち出していない。判事は「名誉毀損法の新たな辺境」と書いた直後に、その辺境には立ち入らないと明言しています。本記事は、何が決まって、何が決まっていないのかを判決文に沿って整理します。
この記事のポイント
- これは「Google敗訴」でも「賠償命令」でもない。却下申立てが退けられたということは、訴状の書きぶりだけで訴訟を終わらせることはできない、という手続上の判断で、事件は証拠開示手続 (当事者が互いに社内資料や証言を出し合う段階) へ進む
- AI固有の新しい法理は一つも示されていない。判事は「本申立ては当裁判所に新規論点への深入りを迫るものではない。確立した名誉毀損の判例法と、訴答段階における原告に有利な基準に基づいて処理する」と明言している
- Section 230は争点ですらない。判決文に一度も登場せず、Googleも主張していない。Googleはむしろ、この申立ての限りで「AI出力が名誉毀損たりうること」自体を争わなかった
- 裁判所が判断したのは、訴状の記載から見て、証拠開示を経れば成立しうる余地が残っているか、その一点である。「AI出力は公表 (publication) に当たる」とも「ハルシネーションに現実の悪意が認められる」とも述べていない
- デラウェア州の訴答基準は米国内でも特に低い。判決文自身が脚注で、連邦の基準よりさらに低いと自己言及している。他州・連邦への波及を過大に見積もる材料にはならない
事件の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事件名 | Robert Starbuck v. Google LLC (C.A. No. N25C-10-211 MAA) |
| 裁判所 | デラウェア州上級裁判所 (この訴訟が最初に係属している裁判所) |
| 判事 | Adams判事 (判決文の署名は姓のみ) |
| 提訴 | 2025年10月22日 |
| 却下申立て | 2025年11月17日。口頭弁論 2026年3月3日、弁論終結 2026年4月6日 |
| 判決 | 2026年7月24日。Google LLCの却下申立てを全部退けた |
| 訴因 | 当然名誉毀損 (defamation per se) 1個のみ |
| 請求 | 損害として1,500万ドルを超えると見積もられる額 + 懲罰的損害 + 差止 (陪審請求あり) |
| 対象の出力 | 22件。2025年8月14日から10月17日 |
| 次の段階 | 証拠開示手続。公判期日は未指定 |
原告は、判決文の記述では映画製作者・ジャーナリスト・活動家です。訴状は、GoogleのAIが、実際には存在しない性犯罪や暴力犯罪の告発が原告にあったかのような具体的な記述を、複数回にわたって生成したと主張しています。個々の内容は本記事では列挙しません。深刻さを示す事実は、判決文の一文で足ります。「Googleはこれらの出力が真実であるとは主張していない」と判決文は書いています。
なお判決文は、Bard・Gemini・Gemmaを含むGoogleのAI製品群を「Google AI」と総称しています。本記事も以下この用法に従います。
判事は「新たな辺境」に立ち入らないと書いた
判決文の冒頭で、判事はこう書いています。
> 本件が提起する諸論点は、名誉毀損法の新たな辺境を映し出している。そこではAIツールが、その作り手の名誉毀損的な目的を遂げるために用いられたと主張されている。
この一文だけを切り出すと、AI時代の名誉毀損に新しい判断枠組みが示されたように読めます。ところが直後の2文がこうです。
> もっとも本申立ては、当裁判所にそうした新規論点への深入りを迫るものではない。当裁判所はGoogleの却下申立てを、確立した名誉毀損の判例法と、訴答段階における原告に有利な基準に基づいて処理する。
引用にあたって注意が2点あります。1つは、最初の一文が「主張されている (allegedly)」付きであること。判事は原告の主張の構造を要約しただけで、事実を認定していません。もう1つは「その作り手の」という限定です。「AIが勝手に暴走した」ではなく「Googleが道具として使った」という原告の主張の形を、そのまま写した表現です。
そして実際に判決文が使ったのは、AI固有の法理ではなく、公人の名誉毀損に関する既存の要件だけでした。
GoogleはSection 230を主張していない
Googleが却下を求めた根拠は、次の3点だけです。
| # | Googleの主張 | 平たく言うと |
|---|---|---|
| A | 損害の主張不足 (テネシー州法の適用を前提) | 「どんな損害が出たのか具体的に書けていない」 |
| B | 公表 (publication) の主張不足 | 「その出力を第三者が実際に見た、という事実が書けていない」 |
| C | 現実の悪意 (actual malice) の主張不足 | 「虚偽と知りながら出した、と書けていない」 |
現実の悪意 (actual malice) は、原告が公人の場合に加わる要件です。虚偽と知りながら、または真偽を無謀に無視して公表したことを指し、日本語の「悪意」(害意) とは意味がずれます。
この3点にSection 230は含まれていません。判決文に一度も登場せず、Googleも援用していません。それどころか判決文の脚注は、Googleの申立て理由書 (opening brief) 18頁の脚注を引いて、Googleがこの申立ての限りで「AI出力が名誉毀損たりうる」ことを前提として受け入れていると記しています。争われたのは、あくまで訴状の書きぶりです。
「プラットフォーム免責が崩れた」という説明は、この事件については端的に誤りです。免責は主張されていないので、崩れようがありません。
3つの主張が退けられた理由
公表 (publication)
Googleは「利用者が質問して初めて出力されるのだから公表ではない」「受領者が特定されていない」と主張しました。裁判所はこれを、訴答段階の要求としては過大だと判断します。訴状は受領者を3つの類型で主張しており (原告の子供・同僚、本人に直接問い合わせてきた匿名の2名、そして「Google AI自身が2,843,917名のユニークユーザーに虚偽を提供したと認めた」という主張)、大量公表型の名誉毀損で読者一人ひとりの受領状況を訴状に書けと求めるのは、通知主義的訴答 (訴状は何を訴えているか相手に伝われば足りるという考え方) の範囲を超えるとしました。
Googleは「そのAIの自認は信用できない。訴状の大半はAIが嘘をつくと言っているのに、この点だけ信じろというのか」と反論しています。裁判所の応答は、それは「AIが一度も真実を語らなかったと推認せよ」と言うに等しく、この段階で原告に有利に推認するという義務に反する、というものでした。
ここで裁判所は「AI出力は公表に当たる」という一般命題を立てていません。立てたのは「訴状の記載から、第三者が受領したと推認する余地がある」という訴答レベルの判断だけです。
現実の悪意 (actual malice)
却下できないとした根拠は4つ挙げられています。
- 免責文言 (ディスクレーマー) が記録に存在しない: Googleは「不正確さを警告している以上、悪意の推認は否定される」と主張しましたが、その文言は訴状にも証拠にも出ていません。裁判所は立証なしに事実として採用することを拒み、どの文言が、いつ、誰に、どう表示されていたのか確認できないとしました。効果の判断は「手続の後の段階で適切に扱われる」と明記されています
- 「意図的に設計された偏向」の主張: 原告は、Google AI自身が「Google幹部と政治的に意見を異にする個人の評判を毀損するよう意図的に設計された偏向」を認めたと主張しています。裁判所は「この理屈がどれほど扇情的であろうと」と留保を付けたうえで、証拠開示の前に切り捨てはしないと判断しました。この主張の当否について、裁判所は判断していません
- 事前通知の存在: 2025年7月31日と8月12日にGoogle法務部が受領した書面通知があり、これらは訴因となった22件の出力すべてに先行します。裁判所は、通知が問題の出力を特定し、監視の責任者に回付され、それでも是正されなかった、という筋書きはありうると述べました。ただし通知の中身は訴状にも準備書面にも添付されておらず、裁判所は正確な内容を把握していないと明記しています
- 出典の捏造: 存在しない記事を実在のジャーナリストに帰属させたという主張について、出典の捏造は現実の悪意の認定を支えうるとする既存判例を引いています
裁判所はGoogleの主張の誤りも1つ正しています。Googleは「原告は現実の悪意を、明白かつ確信を抱かせる証拠によって主張しなければならない」と繰り返しましたが、裁判所は脚注で、それが求められるのは証拠開示の後の立証であって訴答段階ではない、と述べました。
「AIのハルシネーションに現実の悪意が成立しうるか」という問いに、裁判所は答えていません。
損害
準拠法の選択に踏み込まずに処理されました。Googleが適用を主張したテネシー州法でも、州最高裁の判例が「特別損害や実費の立証は必ずしも必要でなく、地域社会における立場への侵害、屈辱、精神的苦痛の証拠で足りる」としています。原告は具体的な精神的苦痛を主張しているので、テネシー州法でもデラウェア州法でも結論が変わらない。したがって準拠法選択の分析は不要、という運びです。
Walters v. OpenAIとの違い
Googleが主要な依拠先としたのは、2025年5月19日にジョージア州上級裁がOpenAIを全面勝訴させたWalters v. OpenAIでした。ジョージア州上級裁も、デラウェア州上級裁と同じく事件を最初に審理する裁判所で、上訴審ではありません。判決文は1節を割いて、この先例と本件を区別しています。
| 論点 | Walters v. OpenAI | Starbuck v. Google |
|---|---|---|
| 手続段階 | 略式判決 (証拠開示の完了後) | 却下申立て (証拠開示の前) |
| 結論 | OpenAI全面勝訴 | Googleの却下申立てを全部退けた |
| 受領者 | 1名のみ。その場で誤りに気づき公表しなかった | 子供・同僚・匿名2名 + 約284万人と主張 |
| 免責文言 | 証拠として立証済み | 記録に存在しない |
| 原告の理論 | 「研究ツールとして売り出し、hallucinationしうると知っていた」= 事実上の無過失責任論に近い主張 (この性格づけはQuotidiaの整理です) | 「毀損するよう意図的に設計された」+「事前に通知したのに放置」 |
結論が分かれた理由として裁判所が挙げたのは3点です。段階が違うこと (「そうした細目まで訴状に書けと求めるのは、証拠開示が正式に始まる前に徹底した証拠開示をやれと求めるに等しい」)。受領者が真実だと信じたかを問うWaltersのテストが、デラウェア州法に存在しないこと。そして、原告の悪意の理論そのものが違うことです。
この判決をどこまで一般化できるか
- 訴答基準の低さ: 判決文の脚注は、デラウェア州の「合理的に考えられる余地」基準が「可能性」に近く、連邦の「ありそうだ」基準はそれより上にあると自己言及しています。同じ訴状が連邦裁に提出されていれば結論が違った可能性は十分あります
- 争点は先送りされただけ: 免責文言の効果、284万人という数字の真偽、法務部通知の中身、「意図的な設計」の当否は、いずれも証拠開示の後に再び争えます。原告が公人であることも、判決文は「本申立ての目的において」両当事者が合意したものと記しており、現実の悪意という高いハードルが課される前提そのものがこの段階限りの合意です
- 判決文自身の断り: 「当裁判所は、訴状に主張された事項が真実であることに同意を表明する意図はない。訴状の主張の真実性は、証拠開示の後に解決されうる」
なお、判決後のGoogleの公式コメントは、本稿執筆時点で確認できていません。
日本でAIを使う側にとっての意味
- 新しい法理ではなく、既存法がそのまま当たる: この判決の実質は「AIだから特別扱いされる」でも「AIだから免責される」でもなく、既存の名誉毀損法の要件がそのまま適用されるという確認です。生成物の出し手が負う責任を考えるとき、参照すべきは新しいAI法ではなく、現に手元にある名誉毀損の要件になります
- 通知の扱い: 裁判所が悪意の材料になりうるとしたのは、「通知が特定的で、担当部門に届き、それでも是正されなかった」という筋書きでした。生成物についての指摘を受け取る窓口と、その後の是正記録は、事後の責任論に直結します
- 免責文言は記録に出して初めて効く: 「不正確な場合があります」という表示は、いつ、誰に、どう表示されていたのかを示せなければ、この事件のように判断材料に入りません
まとめ(FAQ)
Q. Googleは敗訴したのか?
A. いいえ。退けられたのは、中身の審理に入る前に訴訟を終わらせるための却下申立てです。名誉毀損の成立を認めた判断ではなく、訴訟が証拠開示手続へ進むという手続上の決定で、賠償命令も出ていません。
Q. AIのハルシネーションに責任が認められた画期的判決なのか?
A. 判事自身がそれを否定しています。「名誉毀損法の新たな辺境」と述べた直後に、本申立ては新規論点への深入りを迫るものではない、確立した判例法と訴答段階の基準で処理する、と明言しています。AI固有の法理は示されていません。
Q. Section 230のプラットフォーム免責が否定されたのか?
A. 争点になっていません。判決文が挙げるGoogleの主張は損害・公表・現実の悪意の3点で、Section 230はその中にありません。35頁の判決文に一度も登場しない語です。
Q. Bardが虚偽を生成した事件なのか?
A. 訴因となった22件の出力は、2025年8月14日から10月17日のものです。Bardは2024年2月8日にGeminiへ改称されており、この22件はBard期の製品による出力ではありません。ただしBard期の2023年のやり取りは、現実の悪意を推認させる背景事実として訴状に含まれ、裁判所は「改称・統合したから過去は無関係」というGoogleの切り分けを現段階では採りませんでした。
Q. 他州や連邦の裁判所でも同じ結論になるのか?
A. 断定できません。判決文の脚注は、デラウェア州の訴答基準が連邦の基準よりさらに低いと自己言及しています。この判決は、その低い基準の下で、訴状が却下を免れたという判断です。
Quotidia の視点
Quotidiaはこの判決を、報道の見出しから一段下げて読みました。読んだのは判決文35頁で、要約記事ではありません。そこで確かめたかったのは、AI固有の新しい判断枠組みが本当に立っているのかという一点でした。結論は、立っていないというものです。目を引かれたのはむしろGoogleの戦い方で、この申立ての限りではAI出力が名誉毀損たりうること自体を争わず、訴状の書きぶり3点だけで押しています。示されたのは新しい法理ではなく、既存の名誉毀損法がそのまま当たるという確認です。開いたのは入口だけで、免責文言の効果も、公表の成否も、悪意の有無も、証拠開示の後に残されています。この先の争点は、AIの性質ではなく記録の側にあります。免責文言がいつ誰にどう出ていたか、通知が誰に届いて何が起きたか。いずれも証拠として出せるかどうかで決まります。
関連記事:
- AppleがOpenAIを提訴。「あらゆるレベルで営業秘密を盗んだ」と全面対決へ(AI企業が法廷に立つ回の対。AppleがOpenAIを提訴した件は営業秘密をめぐる企業間の争いで、こちらは個人が生成物の中身そのものを争っている)
- マーガレット・アトウッドがAIを「ゴミを入れればゴミが出る」と評した。生涯一度だけ使ったのは Anthropic の Claude で、ドラマ「ブラウン神父」の犯人を訊いたら堂々と事実と異なる答えが返ってきた話【2026年6月】(生成物の虚偽を扱った回。作家が実際に受け取った事実と異なる回答は逸話で済んだが、同じ性質の出力が訴訟の対象になったのが今回)
前の住人の名前

元同僚の部屋の郵便受けには、二年前に出ていった人の名札が入ったままになっている。差し込み式の白い名札で、彼女が越してきた日にはもう端のほうが黄ばんでいたそうだ。管理会社には三度電話した。三度とも、確認しますと言われた。それきりだという。
月に一通か二通、その人あての郵便が届く。保険の案内、どこかの会員証の更新、季節の変わり目の挨拶状。彼女はそれを一階の受け箱に入れてから、部屋へ上がる。「返せない郵便って、捨てるのも駄目なのよ」といつだったか彼女は言った。「あれは私の物じゃないから」
その話を聞いたのは先週、十一時を過ぎてからかかってきた電話でだった。彼女は名乗らない。時候の挨拶は人生の無駄だと本気で思っている人で、誤植を見つけることにかけては名人だ。看板でも駅の掲示でも、通り過ぎながら一度で見つける。
「二千八百四十三万人ですって」と彼女は言った。「その嘘を読まされた人の数。桁がすごいわね」
「二百八十四万です」と僕は言った。「二、八、四、三、九、一、七」
「訴えたほうが言っている数ね」と彼女は言った。
彼女が読んでいたのは、アメリカのデラウェア州の裁判所が出した判断だった。Googleを相手取った名誉毀損の訴訟で、Google側の申立てが退けられた。訴えているのは、映画をつくり、記事を書き、活動家として知られる男性だ。訴状によれば、GoogleのAIは、実際には存在しない犯罪の告発が彼にあったかのような記述を、去年の八月から十月にかけて二十二回にわたって生成した。Googleはこの裁判で、それらの出力が真実だとは主張していない。
Googleが求めていたのは、中身の審理に入る前にこの訴訟を終わらせることだった。訴状の書き方が足りていない、という主張だ。裁判所はそれを全部退けた。もっとも、退けられたというのは、Googleが負けたということではない。決まったのは、証拠を出し合う手続きに進ませてよいかどうかだけで、書かれていることが本当かどうかには、まだ誰も手を付けていない。材料が揃っているかを覗いただけで、鍋には火が入っていない。
グラスの氷が動く音がした。彼女は少し黙ってから、うちの冷蔵庫は夜中に製氷機の氷が落ちる音で必ず一度起こしにくる、三時十分ごろで時刻まで決まっている、と言った。それからまた判決の話に戻った。
判事は、この事件が見せているのは名誉毀損法の新しい辺境だ、と書いていた。AIが、人の評判を傷つけるという作り手の目的を遂げるために使われたと主張されている、と。ところが、そのすぐ次の行で、この申立ては裁判所にその新しい問題へ深入りすることを迫るものではない、と断っている。使ったのは、前からある名誉毀損の決まりと、この段階では訴えた側に有利に読むという原則だけだった。新しい辺境の話をしておいて、地図には一本も線を引かなかったことになる。
Googleは、不正確なことがあると前もって断っているのだから悪意など推認できない、とも言っていた。ただ、その断り書きがいつ、誰に、どんな文字で出ていたのかは、訴状にも証拠にも出ていない。裁判所はその話を後の段階に回した。AIの出力だから責任を負わない、という言い方も、Googleはしなかった。この申立てに限っては、出力が名誉毀損になりうること自体を争わずに、訴状の書きぶりの三点だけで戦っている。
「悪意って、その悪意じゃないのね」と彼女は言った。
「憎いから書いた、では足りないんです。嘘だと知っていて出した、というところまで要る」
「知らなかった、と言えるうちは強いわけね」
訴えているのはその二十二回だが、訴状にはもっと前の、まだ別の名前で呼ばれていたころのやり取りも書いてある。Bardと呼ばれていた時期のものだ。Googleは、あれはいまの製品とは別だと言った。裁判所は、いまの段階ではその切り分けを採らなかった。
「新しい機械の話じゃないのね」と彼女は言った。
「古い決まりが、そのまま届いたという話です」
「名札を差し替えても、郵便は前の名前で来るのよ」と彼女は言った。それから、あなたのときも三行だったわね、と付け足した。
十年以上前、僕が雑誌に書いた記事に、僕が書いていない一文が入って出たことがある。校了の三日後だった。最初に電話をくれたのは、隣の席にいた彼女だった。編集部はよく動いてくれて、次の号の隅に三行の訂正が載った。本誌前号の記事中、次の一文は編集上の誤りにより挿入されたものです、という三行だ。正確だったし、丁寧でもあった。それで済んだことにして、僕は十年以上、その号を確かめずにきた。
電話を切ってから、本棚の下の段の箱を下ろした。蓋のガムテープは端が乾いて反り返っていた。最初の号の切り抜きは、いちばん上にあった。三行の訂正が載ったはずの号は、探しても出てこなかった。僕は切り抜きを箱にしまい、蓋を押さえて、下の段に戻した。
GoogleのAI出力めぐる名誉毀損訴訟、却下申立てが退けられ証拠開示へ。判事は新規論点に深入りしないと明言
米デラウェア州上級裁判所 (Adams判事) は現地2026年7月24日、GoogleのAIが虚偽の記述を生成したとして争われている名誉毀損訴訟 (Robert Starbuck v. Google LLC, C.A. No. N25C-10-211 MAA) で、Google側の却下申立てを全部退けた。訴訟は証拠開示手続へ進む。公判期日は未指定。「Google敗訴」や「賠償命令」ではなく、訴状の書きぶりだけで訴訟を終わらせることはできないという手続上の判断である。訴因は当然名誉毀損 (defamation per se) 1個で、対象は2025年8月14日から10月17日に生成された22件の出力。訴状は、実際には存在しない性犯罪や暴力犯罪の告発が原告にあったかのような記述が複数回生成されたと主張し、請求額は1,500万ドルを超えると見積もられる損害に懲罰的損害と差止を加えたもの。判決文は「Googleはこれらの出力が真実であるとは主張していない」と記す。判事は冒頭で「名誉毀損法の新たな辺境」と述べたが、その直後に「本申立ては当裁判所に新規論点への深入りを迫るものではない。確立した名誉毀損の判例法と、訴答段階における原告に有利な基準に基づいて処理する」と明言しており、AI固有の法理は示されていない。Section 230は判決文に一度も登場せず、Googleも主張していない。GoogleはむしろAI出力が名誉毀損たりうること自体を本申立てでは争わず、損害・公表 (publication)・現実の悪意 (actual malice) の主張不足という訴状の書きぶり3点のみを争点とした。現実の悪意は、虚偽と知りながら、または真偽を無謀に無視して公表したことを指し、日本語の「悪意」= 害意とは意味がずれる。裁判所が判断したのは、訴状の記載から証拠開示を経れば成立しうる余地が残っているか、その一点である。「AI出力は公表に当たる」とも「ハルシネーションに現実の悪意が認められる」とも述べていない。悪意については、免責文言が記録に存在しないこと、2025年7月31日と8月12日のGoogle法務部あて書面通知が22件すべてに先行すること、出典の捏造の主張などが根拠に挙がった。判決文は脚注で、デラウェア州の訴答基準が連邦の基準よりさらに低いと自己言及しており、他州・連邦への波及は割り引いて見る必要がある。判決後のGoogleの公式コメントは本稿執筆時点で確認できていない。
運営: AI Quotidia 編集部
海外 AI ニュースを毎朝、日本語で解説する個人運営メディアです。記事は AI を活用して作成し、人手による確認・編集を経て公開しています。