ロボットに「つかむ」を教えるのは人の手袋。アトムが豊洲に開いた学習データ工場と、200台・30万時間の目標
ロボットに「つかむ」を教えるのは人の手袋。アトムが豊洲に開いた学習データ工場と、200台・30万時間の目標【2026年8月】

ロボット開発スタートアップのアトム (東京・江東区、2025年設立) は2026年8月26日(水)、東京・豊洲にフィジカルAI (文章や画像を作るAIと違い、ロボットなど実体を動かすAI) の学習データを生産する拠点「アトム フィジカル AI ファウンドリ」を開設したと発表しました。人が腕にリーダーデバイス (動きを読み取る器具) を着け、手袋をはめて動くと、ロボットの腕と五本指がその動きに追随する。その動作の記録をロボットの学習データとして大量に作る、という施設です (一次資料はアトムのPR TIMES発表)。開設時の面積は約1,700平方メートル。2027年末には五本指・双腕・二足歩行のヒューマノイド (人と同じ形をしたロボット) を常時200台稼働させ、累計30万時間の学習データを生産する計画です。遠隔操作を担う人は、シフトを含めた総数で「400〜500人規模」とアトムはBusiness Insider Japanの取材に説明しています。
この記事のポイント
- アトム (東京・江東区、2025年設立のロボット開発スタートアップ) が2026年8月26日(水)、東京・豊洲に「アトム フィジカル AI ファウンドリ」を開設した。人の手袋の動きをロボットが真似し、その記録を学習データとして生産する拠点
- 開設時は約1,700平方メートル、2027年前半に約1,000平方メートルを拡張予定。2027年末に常時200台・累計30万時間の学習データ生産が目標で、いま何台が動いているかは発表にない
- 遠隔操作者 (テレオペレーター) は「400〜500人規模」の見込み (アトムの説明・Business Insider Japan・シフト含む総数)。腕にリーダーデバイスを着け、手袋をはめて動くと、ロボットの腕と五本指が追随する
- 企業からは合計約100台の導入意向表明。2027年に自社開発ヒューマノイドを市場投入する計画で、発売でも受注でもない (アトムの説明・クラウド Watch)
- 8月28日(金)には作業風景を生配信。ベルトコンベヤーの荷物をラベル面を上にして置く作業を「おおむね自律的に」続けていたとITmediaが報じた (記事公開時点で開始から約3時間半)
豊洲の拠点で何を作るのか
場所は江東区豊洲6-4-34。「ファウンドリ」は半導体では受託製造工場を指す言葉ですが、アトムの発表では「自社専用の施設にはしない」という意味を込めたと説明し、拠点の一部を外部に開放するとしています。作るものは機体ではなく、データです。
操作者が腕に「リーダーデバイス」と呼ばれる器具を着け、手袋をはめて動く。ロボットの腕と五本指がその動きに追随する。そのときの動作の記録が、「この場面ではこう動く」という学習データになる。アトムの発表はこれを「視覚・触覚・力覚のデータ」と呼んでいます。人が動いた分だけデータが増えるので、拠点の生産能力は、ロボットの台数と、手袋をはめる人の人数と、その人たちが動いた時間で決まります。2027年末の常時200台・累計30万時間は、この生産能力に置いた目標です。
五本指・双腕・二足歩行のヒューマノイドという形を選んでいる理由も、このデータの量につながります。人と同じ形なら、人の職場を改造せずにそのまま入れる。その代わり、指先の細かい作業をこなすためのデータが大量に必要になります。今回の拠点は、その「大量」を自前で作るための場所です。
200台・30万時間・400〜500人。実績と目標の切り分け
発表と取材に出てくる数字を、状態ごとに分けます。
表: アトムの発表に出てくる数字と、その状態
| 数字 | 内容 | 状態 |
|---|---|---|
| 約1,700平方メートル | 開設時の面積 | 発表済み (2026年8月26日(水)) |
| 約1,000平方メートル | 拡張分 | 2027年前半に予定 |
| 常時200台 | 稼働させるヒューマノイドの台数 | 2027年末の目標 |
| 累計30万時間 | 学習データの生産量 | 目標 (アトムの青木俊介社長は「一つの目安」と発言) |
| 400〜500人規模 | 遠隔操作者の人数 (シフト含む総数) | アトムの見込み (Business Insider Japan・担当者がシフト含む総数と説明) |
| 合計約100台 | 企業からの導入意向 | 意向表明 (受注ではない) |
| 開設時の稼働台数 | いま動いているロボットの数 | 発表になし |
確定しているのは開設と面積です。台数と時間は目標、人数は見込み、100台は意向です。いずれも第三者の検証はなく、アトムの計画と主張として読む数字です。だからといって絵空事と決めつける材料もありません。8月28日(金)の生配信 (後述) は、少なくとも1台が実際の作業を続けている場面を公開したものでした。
8月28日(金)の生配信で見えた作業
ITmediaは8月28日(金)、アトムが自社ヒューマノイドの作業風景を生配信中だと報じました (豊洲の拠点かどうかは記事に明記がありません)。記事の公開時点で配信開始から約3時間半。内容は、ベルトコンベヤーで流れてくる荷物を人型ロボットが1つずつ取り、ラベルの面を上に向けて置く作業です。ITmediaの記者はこれを「おおむね自律的に」続けていたと書いています。「おおむね」は記者の観察で、同じ記事には、動作が止まって従業員とみられる人が補助する場面もあったと書かれています。
青木社長は同日、自分たちでデータ収集と設計をした上でAI開発をしていること、ベルトコンベヤーも自作であることをXで明かしたとITmediaは伝えています (本記事はITmediaの引用を通じて確認)。学習データを作る会社が、動作を試す設備まで自分で作っています。
NSKとの基本合意と、8月に相次いだ「データ工場」
開設の6日前、8月20日(木)に、アトムは軸受 (ベアリング) 大手の日本精工 (NSK) と、国産ヒューマノイドAIロボット産業に向けた基本合意書 (MOU) を結んでいます。内容は、NSKが開発するアクチュエータ (ロボットの関節を動かす駆動部品) をアトムの機体に搭載して共同で検証すること、NSKの製造現場で学習データを共同収集することの2点です。MOUは基本合意で、資本提携でも量産契約でもありません。役割分担も、NSKは関節を動かす部品の側で、ロボットそのものを作るのはアトムです。
背景として、アトムは「日本のGDPを1%引き上げる」ことを掲げ、2027年に自社開発ヒューマノイドの市場投入を計画しています。
同じ8月26日(水)には、千葉・習志野の「J-HRTI関東データファクトリー」(約30台稼働・最大40台) の本格稼働をITmediaが報じています。こちらはINSOL-HIGHが事務局を務めるコンソーシアム (企業連合) のJ-HRTIによるもので、アトムとは別の企業の別の施設です。同種の「データ工場」が、国内で同じ日に2つ表に出たことになります。
日本の読者にとっての意味
引用する前に確かめておきたいのは、数字の読み方です。200台・30万時間・400〜500人は、どれもアトムの計画と見込みで、第三者の検証はありません。引用するなら「2027年末の目標」「アトムの見込み」という帰属を付けたまま使うのが安全です。
それから、「手袋をはめて動く」という仕事が、数百人規模で見込まれていることです。ロボットに作業を教えるのは、プログラムを書く人だけではなく、腕に器具を着けて荷物を持ち上げる人でもある。人の手の動きそのものが商品になる工場が、東京の湾岸にできました。
もう1つは、国内で観察できる現場だということです。海外の発表と違って、豊洲の拠点は日本語の一次資料 (PR TIMES) があり、アトムの機体の作業の様子が生配信され、日本語メディアの取材も入っています。フィジカルAIの進み具合を、翻訳を介さずに定点観測できる場所が1つ増えました。
まとめ(FAQ)
Q. 豊洲でロボット200台が動いている?
A. 違います。常時200台は2027年末の目標で、開設時点で何台が稼働しているかは発表にありません。
Q. 30万時間の学習データはもう集まった?
A. いいえ。累計30万時間は目標で、青木社長は「一つの目安」と話しています。
Q. アトムはヒューマノイドを発売した?
A. まだです。市場投入は2027年の計画で、企業からの約100台は導入意向の表明であって受注ではありません。
Q. NSKがロボットを作るの?
A. 作りません。NSKは関節を動かすアクチュエータなど部品の側で、機体を作るのはアトムです。両社の合意はMOU (基本合意) で、資本提携や量産契約ではありません。
Q. 外食チェーンのアトムと同じ会社?
A. 別法人です。本記事のアトムは東京都江東区に本社を置く2025年11月設立のロボット開発スタートアップで、外食チェーンを運営する株式会社アトム (コロワイドグループ) とは関係がありません。
検証メモ(出典と確認の範囲)
- 一次資料はアトムのPR TIMES発表 (ファウンドリ開設 2026年8月26日(水)、NSKとのMOU 2026年8月20日(木)) です。2026年8月29日(土)に確認しています。
- 遠隔操作者「400〜500人規模」とリーダーデバイス・手袋の描写は、Business Insider Japanの記事 (2026年8月28日(金)公開) に基づきます。400〜500人はアトムの担当者がシフトを含めた総数と説明したもので、青木俊介社長の発言として書かれているのは「30万時間ほどが一つの目安」(会見) です。
- 8月28日(金)の生配信の内容はITmedia AI+の記事 (同日17:11公開) に基づきます。「おおむね自律的に」はITmedia記者の観察で、同記事は従業員とみられる人物が補助する場面もあったと記述しています。「約3時間半」は記事公開時点の経過時間です。配信場所は ITmedia 記事に明記がありません。配信の終了時刻・総時間・視聴数は未取得です。青木社長のX投稿は、Xの閲覧環境の都合で原文を確認できておらず、ITmediaの引用を通じた確認です。
- 数字の帰属: 面積 (約1,700平方メートル・約1,000平方メートルの拡張)、2027年末の常時200台・累計30万時間、企業からの約100台の導入意向 (クラウド Watch 2026年8月28日(金)・アトムの説明として。日刊工業新聞は「自動車関連の複数社から約100台の購入の引き合い」と表現) は、いずれもアトムの計画と主張で、第三者による検証はありません。開設時点の稼働台数は発表にありません。「30万時間」の1時間が人の操作時間かロボットの稼働時間かは発表に明示がなく、本記事は計算に使っていません。
- NSK公式リリース (2026年8月20日(木)) でも同内容 (アクチュエータの共同検証・NSK製造現場での学習データ共同収集・資本提携や出資の記載なし) を確認しています。
- J-HRTI関東データファクトリー (INSOL-HIGHが事務局のコンソーシアムJ-HRTI・千葉県習志野市・約30台稼働・最大40台) はITmedia 2026年8月26日(水)の記事に基づき、J-HRTIの発表 (LNews 2026年8月26日(水)) で同日本格稼働と確認しています。アトムの拠点とは別企業・別施設です。
- 本記事の「アトム」は東京都江東区の株式会社アトム (2025年11月設立・ロボット開発) を指し、外食チェーンを運営する株式会社アトムとは別法人です。
- 日付はすべて日本時間です。
Quotidia の視点
アトムの発表で、開設の日に現物があるのは約1,700平方メートルの床だけです。常時200台も、累計30万時間も、遠隔操作者400〜500人も、2027年に向けた計画と見込みです。それは弱点というより、この拠点の性格です。人が手袋をはめて動き、その記録をロボットに渡す。ここで作られるのは機体ではなく、人の手の動きの記録そのものです。データが商品なら、工場の稼働は「何台のロボットが動いているか」より「何人の手が何時間動いたか」で測られます。生配信で見えたのは、ラベル面を上にして置くという一つの作業を、ロボットがおおむね自分で続ける場面でした。その一つの作業の後ろに、手袋をはめた人の何回分の動きがあるのかは、発表からは読めません。順番は手袋が先で、自律が後です。豊洲の数字は、いまはまだ手袋の側にあります。
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三百回目の手

月に何度か一緒に仕事をする、二十代の女性がいる。彼女はクレーンゲームで景品を取るのが、異様にうまい。駅ビルの三階に昼でも明るいゲームセンターがあって、彼女は昼休みに百円玉を二枚だけ持って上がり、十五分で戻ってくる。戻ってくるときには、たいてい腕に何か抱えている。仕事場の棚には彼女の取ってきたぬいぐるみが十四個並んでいて、置き場所はもうない。十五個目は誰かにあげる約束になっているらしい。
コツを訊いた人は何人もいる。そのたびに彼女は困った顔をする。
「コツを訊かれるのが、いちばん困るんです。三百回落として、三百一回目に手が覚えていただけだから。口で言えるなら、もっと早く取れてました」
三百という数は彼女が頭の中で数えていた回数で、切りのいいところで丸めてあるのだと思う。使う台も決まっている。三階の、左から二番目。理由は訊いても教えてくれない。僕はといえば、この種の機械で景品を取ったことが、子どものころから一度もない。アームが降りる直前に、いつも何かを余計にやってしまう。
九月の最初の日は火曜日で、朝刊に手袋の写真が載っていた。ロボット開発のスタートアップで、アトムという名の会社が、先週の水曜日に東京の豊洲へ「フィジカルAIファウンドリ」という拠点を開いた、という記事だ。東京の江東区にある、去年できたばかりの会社だという。写真の人は腕に器具をつけ、手袋をはめて、台の上の箱を持ち上げている。その隣でロボットの腕と五本の指が、同じ動きをなぞっている。人が動き、機械が付いていき、付いていった記録がロボットの学習データになる。データを作るための工場で、自分たちだけで使う施設にはしない、という意味でファウンドリと名づけたのだそうだ。手袋をはめる人は四百人から五百人の規模になる見込みだと、その会社は説明している。二〇二七年の暮れまでに常時二百台のロボットを動かし、累計で三十万時間ぶんの動きを集めるのが目標で、三十万時間はひとつの目安だと社長の青木俊介という人が話していた。二百台も三十万時間も、いまの豊洲にはまだない。これから、の数字だ。先週の金曜日には、ベルトコンベヤーで流れてくる荷物を一つずつ取ってラベルの面を上にして置く作業を、その会社が生配信していたらしい。おおむね自分でやっていた、というのが記事の言い方で、ベルトコンベヤーは自作だと社長が明かしていた。
昼前に彼女が来て、僕の机の上の新聞を覗きこんだ。
「これ、手袋で教えるんですね」
「動きを記録して、ロボットに渡す。四百人か五百人でやるらしい」
「四百人分の三百回か」と彼女は言った。「十二万回落とせば、そのうち一回は掴みますね」
彼女は新聞を元どおりにたたんで、百円玉を二枚、僕の机の角にそろえて置いた。
「見に来ます?」
僕は付いていった。三階のゲームセンターは昼の光が奥まで届いていて、筐体の中の景品だけが濃い色を持っていた。左から二番目の台は空いていた。彼女は百円玉を入れ、レバーを握る前に一度だけ手を開いて、閉じた。レバーには遊びがある。動かしても、最初の少しのあいだはアームが応えない。その遊びのぶんを、彼女の手は先に知っている。アームが降りるとき、彼女の腕から力が抜けるのが、斜め後ろから見ていてわかった。力は入れない。抜く。降りたアームが青いペンギンの脇を挟んで持ち上げ、取り出し口の上で開いた。落ちる音は、乾いた木の実が板に当たるような音だった。取り出し口から引き出すと、ペンギンの腹は筐体の照明のせいで、少し温かい。
「この台、音楽が三分でループするんです。二周目の途中で取るのが、いちばん気分がいい」
それは僕が今年聞いた中でいちばん役に立たない情報で、いちばん彼女らしい情報だった。
二枚目の百円玉は僕がもらった。三回できる。一回目はアームが景品の肩をかすめて、何も掴まずに戻った。二回目は掴んだ。掴んで、持ち上げて、三センチのところで落とす。彼女が小さく息を吸うのが聞こえた。三回目は遊びの中で手が迷って、見当違いの場所に降りた。横から、声はなかった。三百回のうちの三回が、いま済んだ。
豊洲の四百人か五百人は、この力の抜き方を手袋で渡すことになる。掴めた回も、かすめただけの回も、手袋をはめているあいだは記録になるのだろう。二百台が並ぶかどうかは二〇二七年の暮れの話で、いま確かなのは、千七百平方メートルの床が開いたことだけだ。
ペンギンは彼女が抱えて、階段を降りた。十五個目の相手は決めてある、と彼女は言った。相手が誰かは教えてくれなかった。僕の右手は、まだレバーの遊びのぶんだけ、空を握っていた。
アトムが豊洲に「フィジカルAIファウンドリ」開設。人の手袋の動きをロボットの学習データにする拠点、2027年末に200台・30万時間が目標
ロボット開発スタートアップのアトム (東京・江東区、2025年設立) は2026年8月26日(水)、東京・豊洲にフィジカルAIの学習データを生産する拠点「アトム フィジカル AI ファウンドリ」を開設したと発表した。操作者が腕にリーダーデバイスを着け、手袋をはめて動くと、ロボットの腕と五本指が追随し、その動作記録が学習データになる。開設時の面積は約1,700平方メートルで、2027年前半に約1,000平方メートルを拡張する予定。2027年末に五本指・双腕・二足歩行のヒューマノイドを常時200台稼働させ、累計30万時間の学習データを生産することを目標に掲げる。遠隔操作者は「400〜500人規模」の見込み (アトムの説明・Business Insider Japan)。企業からは合計約100台の導入意向があるが受注ではなく、自社開発ヒューマノイドの市場投入は2027年の計画。開設時点の稼働台数は発表にない。8月20日(木)には日本精工 (NSK) とアクチュエータの共同検証などで基本合意 (MOU) を結び、8月28日(金)には作業風景を生配信。ベルトコンベヤーの荷物をラベル面を上にして置く作業を「おおむね自律的に」続けていたとITmediaが報じた (記事公開時点で約3時間半)。
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