「何ひとつ拒否されなかった」。Google EarthのAI画像生成、公開1日で撤回
「何ひとつ拒否されなかった」。Google EarthのAI画像生成、公開1日で撤回【2026年8月】

Googleは現地時間2026年7月31日(金)、その前日の7月30日(木)にGoogle Earthへ追加したばかりのAI画像生成機能を撤回しました。公開から24時間未満での撤回だったとForbesは伝えています。日本時間では、公開が7月31日(金)、撤回が8月1日(土)頃にあたります。Google Earthは2005年に始まったGoogleの地球儀ソフトで、衛星・航空・3D画像で世界中を閲覧でき、報道・研究・災害対応の現場が「その場所が実際にどうなっているか」を確かめる照合先として20年使われてきました。そこに載った新機能は、任意の地点の衛星写真の上に、画像生成AI「Nano Banana 2」(GoogleのGemini系の画像生成モデル) で写実的な画像を作れるというものでした。この記事の言いたいことは1つです。これは「Googleが誤情報の危険を認めて撤回した」話ではありません。Googleの撤回文は「ポリシーに違反しているとみられる画像の共有を確認した」までで止まり、最後は防衛の言葉で終わっています。一方で、その防衛線が機能しない例は、同じ1日のうちに外部の検証で示されていました。Googleが言ったことと、検証で示されたことを分けて読むと、この1日の姿が正確に見えます。ここでいう防衛線とは、「電子透かしが入っているので、AI生成かどうか確認できる」というGoogleの案内のことです。引用の原文と出典の一覧は、末尾の検証メモに置きました。
この記事のポイント
- 現地時間2026年7月30日(木)、GoogleはWeb版Google Earthに「create image」ボタンを公開した。衛星・航空・3D画像の上に、AI「Nano Banana 2」で写実的な画像を生成できた
- 公開当日から、記者やOSINT (公開情報から事実を検証する調査手法) の研究者が「偽の衛星画像を作れること」を次々に実証した。調査の専門家Henk van Essは4つの偽画像を作らせて「何ひとつ拒否されなかった」と書いた
- 翌7月31日(金)、Googleは機能を撤回した。撤回文が挙げた理由は「ポリシーに違反しているとみられる生成画像のスクリーンショット共有」まで。「誤情報の危険」という言葉は撤回文にはない
- Googleが案内した確認手段 (SynthID電子透かしをGeminiアプリやLensで確認) は、検証で判定に失敗する例が示された。画面を撮影し直すと検出を回避できることも報じられた
- 悪意の第三者による実被害 (偽画像が誤情報として拡散し実害が出た事例) の報告は、現時点でどのソースにもない
公開から撤回までの1日に何が起きたか
Googleは現地時間2026年7月30日(木)、公式ブログ「The Keyword」で新機能を発表しました。発表文の書き出しはこうです。「初めて、Google Earthの衛星・航空・3D画像を使い、Nano Bananaとともにカスタム画像を生成できる。現実世界に根ざしたコンセプトを作り出せる」(「Nano Banana」は引用原文の表記。本記事の対象はNano Banana 2です)。想定用途として挙げられたのは、史跡の視覚化、教育用のインフォグラフィック、不動産の計画、着工前のプロジェクトの可視化などです。待機リストはなく、Web版Google Earthの全ユーザーに「create image」ボタンが開かれました。
最初に大きく動いたのは、画像の真偽を確かめることを仕事にする人たちでした。OSINT (衛星画像やSNSなどの公開情報から事実を検証する調査手法) の専門家Henk van Ess (ヘンク・ファン・エス) は、公開当日に片端から試した中身を、NPRの取材にこう説明しています。「メキシコ国境の難民、イランの原子力施設、アムステルダムの事故、ガザの爆撃痕のある病院を試した。何ひとつ拒否されなかった」。米公共ラジオNPRも自ら検証し、炎上するイランのハールグ島と、水没した米議会議事堂の画像を生成できたと報じました。van Ess氏は自身のX投稿にこう書いています。「グーグルは一体全体、何をしているのか (What on earth is Google doing?)」。
表: 公開から撤回までに何が起きたか
| 日付 (現地時間) | 出来事 |
|---|---|
| 7月30日(木) | The Keywordで発表。Web版Google Earthの全ユーザーに「create image」を公開 |
| 7月30日(木)〜31日(金) | 記者・OSINT研究者が、偽の衛星画像を作れることを次々に実証。批判が拡大 |
| 同時期 | GoogleがXで釈明。「全画像にSynthID電子透かしが入り、AI生成かどうか確認できる」(Futurismが伝えた投稿) |
| 7月31日(金) | 撤回。The Keywordの発表文の冒頭に「Update, 7/31」として撤回文を追記 |
発表から撤回まで、Forbesによれば24時間未満。この規模の企業が公開した機能をこの速さで撤回するのは異例です。そして撤回の告知は、新しいページではなく、前日の発表文の頭に追記されました。「初めて、現実世界に根ざしたコンセプトを」と始まる発表文は今もそのまま残り、その真上に、翌日の撤回の段落が載っています。
Googleは何と言い、何と言っていないのか
撤回文は短いので、全文を訳します (原文は検証メモ)。「更新 (7/31)。人々が『世界の信頼できる姿』を求めてGoogle Earthを特別に信頼していることを、私たちは知っている。地理空間の専門家がこの機能をさまざまな有用な目的で使う姿を見てきた一方、生成画像のスクリーンショットを共有する人々も見られ、それらは私たちのポリシーに違反しているとみられる。そこで、より強固なガードレールの実装に取り組む間、Google Earthのこの機能をロールバックする。なお、生成画像がメインのGoogle Earth上で他のユーザーに表示されることはなく、AI生成である旨のウォーターマークが付されていた」。
Googleが撤回の理由として言ったのは「ポリシーに違反しているとみられる画像のスクリーンショット共有を確認した」までです。どのポリシーに、どんな画像が違反したのかは特定されていません。「誤情報」「偽情報」という言葉は撤回文に出てきません。そして最後の一文は、「他のユーザーには表示されなかった」「ウォーターマークが付いていた」という設計の説明、つまり防衛で締められています。
一方、報道の見出しは別の言葉で書かれました。TechCrunchは「誤情報を広めるという批判のさなか」、Bloombergは「偽画像への懸念」、AFPは「反発を受けて」の撤回と伝えています。「偽情報懸念で撤回」は、批判側と報道側の言葉です。Google自身の言葉は、最後まで防衛の姿勢を崩していません。
「確認できます」は、検証でどうなったか
撤回より前、批判が広がった時点で、GoogleはXで釈明していました。Futurismが伝えたその投稿はこうです。「誤情報は深刻に受け止めている。Google EarthのNano Bananaで作られた全画像にはSynthIDデジタルウォーターマークが含まれる。画像に確信が持てなければ、Geminiアプリに尋ねるか、検索のLensでAI生成かどうか確認できる」。SynthIDは、Googleが開発したAI生成コンテンツ用の電子透かしで、目に見えないマーカーを画像に埋め込む仕組みです。
この防衛線は、同じ1日のうちに検証されています。
表: Googleが案内した確認手段は機能したか
| 検証 | 結果 |
|---|---|
| 生成画像をGeminiに判定させる (Tal Hagin氏・Futurismが報告) | 「生成手段を示す信頼できるシグナルは検出されなかった」との回答。案内された手段でAI生成と判定できなかった |
| 生成画像を画面ごと撮影して判定にかける (Forbesの検証) | 検出を回避できた。判定サービスHive AIの評価は「AI生成の可能性1%」 |
「対策はある」という説明と、その対策が機能しなかったという検証結果が、同じ1日の中に並んだことになります。Googleが撤回理由に挙げた「スクリーンショットの共有」は、まさに透かしの確認だけが頼りになる流通経路です。生成画像は他のユーザーのGoogle Earthには表示されない設計でしたが、スクリーンショットとしてSNSに出た瞬間、その封じ込めの外に出ます。外に出た画像を見分ける最後の手段が透かしで、その透かしの判定が検証で揺らいだ。批判の核心はここにあった、というのが本記事の読みです。
何が懸かっていたのか
今回の批判で目を引くのは、声を上げた人たちの職業です。van Ess氏はOSINTの実務家。Jake Godin氏はBellingcat (公開情報の検証で知られる調査報道グループ) の研究員。Evan Hill氏はWashington Postの調査記者。Ross Burley氏は情報の検証に取り組む団体Centre for Information Resilienceの人物です。衛星画像は、彼らが事実を確かめるときの照合の拠り所でした。Burley氏はAFPの取材にこう述べています。「衛星画像への信頼は数十年かけて築かれたもので、一夜にして回復不能なほど損なわれ得る」。van Ess氏の言葉はもっと直接的です。「グーグルは20年かけて、世界が照合の拠り所にする基準を築いた。今日、そこに『作り話をするボタン』を付けた」(AFP配信での発言)。
そして、何が懸かっているかを一番端的に書いたのは、Google自身の撤回文の1文目でした。「人々が『世界の信頼できる姿』を求めてGoogle Earthを特別に信頼していることを、私たちは知っている」。批判者が守ろうとしたものと、Googleが自認する自社の資産は、同じものです。
ただし、失われかけたものの範囲は正確に見ておく必要があります。生成画像が他のユーザーのGoogle Earth上に表示されることはなく、AI生成のウォーターマークが付く設計だったことは、Google自身が撤回文で説明しているとおりです。地図の本体が書き換わったわけではありません。また、この機能で作られた偽画像が誤情報として拡散し、実害が出たという報告は、現時点でどのソースにもありません。確認されているのは「作れることが即座に実証された」ことまでです。実証したのが騙す側ではなく見破る側の専門家だった、というのがこの1日の実相でした。
日本の読者にとっての意味
災害のたびに、日本でも偽情報は現実の問題になってきました。国内で「AI生成の偽画像」が広く知られた代表例は、2022年9月の台風15号による静岡県の水害で出回った、ドローン撮影風の偽画像でした。2024年の能登半島地震では、発災後24時間にX (旧Twitter) に投稿された救助要請1,091件のうち、約1割にあたる推定104件がデマだったとの分析があります。2011年の東日本大震災の津波映像が能登の映像として流用され、数百万回表示された事例も確認されています。なお、能登の災害でAI生成の偽画像が確認されたという事実は、今回の調査では確認できていません (検証メモ)。
こうした場面で、衛星写真や航空写真は、流れてくる画像が本当かどうかを確かめる側の道具として使われてきました。Bellingcatの研究員Godin氏はNPRにこう語っています。「誤情報は、どんな訂正よりも遠くまで速く伝わる」。速さで勝てない検証は、拠り所の確かさで支えるしかありません。今回問われたのは、その確かめる側の道具そのものに生成の入り口を付ける、という順序でした。読者が持ち帰れる教訓は具体的です。「AI生成かどうかは透かしで確認できる」という案内があっても、その確認が実際に機能するかは別の問題として扱う。画像の真偽は、透かしだけでなく、誰がいつ発信したかという出どころで確かめる。今回の検証者たちがやったのは、後者の仕事でした。
まとめ(FAQ)
Q. Google EarthのAI画像生成はもう使えない?
A. 使えません。現地時間2026年7月31日(金)にロールバックされました。Googleは「より強固なガードレールの実装に取り組む間」と説明しており、再開時期やガードレールの中身は発表されていません。
Q. 偽の衛星画像は実際に悪用された?
A. 悪用による実害の報告は、現時点でどのソースにもありません。確認されているのは、記者やOSINT研究者による「作れることの実証」です。NPRの2例、van Ess氏の4例などが本人の説明で確認されています。
Q. Googleは「誤情報の危険があった」と認めた?
A. 認めていません。撤回文が挙げた理由は「ポリシーに違反しているとみられる生成画像のスクリーンショット共有を確認した」までで、「誤情報」という言葉は出てきません。「偽情報懸念で撤回」は報道・批判側の言葉です。
Q. AI生成かどうかは電子透かしで見分けられる?
A. Googleは「SynthID電子透かしが入っており、GeminiアプリやLensで確認できる」と案内しましたが、検証ではGeminiが判定できない例 (Futurismが報告) と、画面撮影で検出を回避できる例 (Forbes) が示されました。透かしだけに頼らず、発信元で確かめるのが現実的です。
検証メモ(出典と確認の範囲)
- 一次資料 (Google側): 公式ブログThe Keywordの発表記事「Transform any place with Nano Banana in Google Earth」(Bryan Horowitz・現地時間2026年7月30日(木)公開)。撤回文は同記事の冒頭に「Update, 7/31」として追記されており、2026年8月5日(水)時点で本文を直接確認しています。本文の撤回文の訳は、この原文全文からのものです。原文全文は次のとおりです。Update, 7/31: We know that people uniquely trust Google Earth for a reliable view of the world. We’ve seen geospatial professionals using this feature for a range of useful purposes, however we’ve also seen people sharing screenshots of generated imagery that appear to violate our policies. So we’re rolling back this feature in Google Earth while we work on implementing stronger guardrails. It’s important to note that generated images didn’t appear in the main Google Earth experience for others to see and were watermarked as AI generated.
- 一次資料 (批判側): Henk van Ess本人のニュースレターDigital Digging「Nano Banana 2 removed from Google Earth」(2026年7月31日(金))。「何ひとつ拒否されなかった (Nothing was refused.)」は本人の言葉として確認済みです。「グーグルは一体全体、何をしているのか (What on earth is Google doing?)」は、このニュースレター本文に引用された本人のX投稿の一節です (帰属は本人の言葉で変わりません)。4つの生成例の内訳は、NPRの取材に対する本人の説明によります。
- van Ess氏の「グーグルは20年かけて、世界が照合の拠り所にする基準を築いた。今日、そこに『作り話をするボタン』を付けた」は、AFP配信 (TechXplore掲載) 経由の引用です。本人ニュースレターでは確認できていないため、本文でAFP帰属を明記しています。
- Googleの釈明投稿 (X) は原文に直接あたれておらず、全文はFuturismの掲載によります (冒頭句のみAFP配信とも一致)。本文で「Futurismが伝えた投稿」としているのはそのためです。
- 「24時間未満」はForbes、TechCrunchの「公開の1日後」に基づきます。「AI生成の可能性1%」(Hive AI・画面撮影時) はForbes単独の検証です。
- Bloombergの記事は直接確認できず (アクセス制限)、見出しの表現のみ検索結果で確認したため、単独の出典としては使っていません。
- BBC Verifyなどによる生成例 (エッフェル塔の崩壊など) は孫引きになるため使っていません。
- 悪用による実被害、Googleの言う「ポリシー違反」の具体的内容、撤回判断の社内経緯、再開時期は、確認したどのソースにも記載がありません。
- 日付は現地時間で統一しています (日本時間の換算は本文冒頭に記載しています)。
- 能登半島地震の偽救助要請の件数 (救助要請1,091件中、推定デマ104件) は、災害時の情報検証を扱うISVDのコラムによる推定値のため、「〜との分析がある」の範囲で書いています。能登で「AI生成の偽画像」が拡散したという事例は、今回の調査 (本件報道8ソースおよびnippon.com・総務省 令和6年版情報通信白書などの国内資料) では確認できませんでした。静岡県の水害 (2022年9月) のドローン撮影風偽画像は、同じ国内資料の範囲で確認している事例です。
- 二次資料: TechCrunch (2026年7月31日(金))・AFP配信 (TechXplore掲載)・NPR (2026年7月31日(金))・Forbes (2026年8月1日(土))・Futurismの各報道を、時系列と発言の突合に使っています。
Quotidia の視点
撤回文の結びの一文を、Quotidiaは何度か読み返しました。撤回を告げる文章が、詫びるのでも非を認めるのでもなく、よその画面には出ない造りだった、AI生成の目印も添えてあった、という仕組みの話で終わっている。ここから読めるのは、Googleにとって今回の撤回が「誤りの訂正」というより「一時停止」に近いということです。「より強固なガードレール」という言葉は、作り直して戻す含みを残しています。日本の読者への示唆は、地図や衛星写真のような照合のためのインフラに生成AIを載せる試みは、これで終わりではないだろうということです。今回、確認手段が本当に機能するかを検証したのはGoogleではなく外部の専門家でした。次に同種の機能が戻ってきた日に、同じ検証をする人がいるかどうかが分かれ目になります。ただし、Googleの言う「ポリシー違反」の中身も撤回判断の経緯も公開されておらず、社内で何が決め手になったのかは分かりません。「一時停止」という読み自体、撤回文の言い回しから引ける範囲の推測です。
関連記事:
- 著者の文体を真似たAI文は、最良の検出器でも10%擦り抜ける。それでもSubstackはAI検出を選んだ(文体を真似たAI文が最良の検出器でも10%擦り抜ける構図と、SynthIDの案内が検証で機能しなかった構図は、「検出があるから大丈夫」の限界という同じ一点を突いている)
- あなたのAIコーディング相棒が、偽バグ報告で攻撃者に乗っ取られる。『Agentjacking』成功率85%【2026年6月】(Agentjackingの「実証であって実害ではない」という線引きが、今回の偽衛星画像 (研究者のデモのみ・実被害の報告なし) にもそのまま当てはまる)
猫のいる方へ

学生の頃、同じ古本屋でアルバイトをしていた女の子に、地図をまったく見ない人がいた。スマートフォンより前の話だから、正確に言えば、地図を持たない人だった。店主に配達を頼まれると、伝票の住所を一度だけ見て、あとは歩き出す。角に来るたび、迷う気配もなく曲がる。あるとき、理由を訊いてみた。
「どうして道を覚えられるの」
「覚えてないよ」と彼女は言った。「足が勝手に曲がるの」
彼女はときどき「こっち」と言って、頼まれてもいない近道に入った。アーケードの、魚屋の脇の細い路地。天井のガラスから落ちる光が、そこだけ床を白くしていた。理由を訊くと「猫がいるから」とだけ答えた。猫は、いる日といない日があった。
一度だけ、二人で盛大に迷ったことがある。町はずれに新しくできた住宅地で、同じ形の家が同じ角度で並んでいた。彼女は二つ目の角で立ち止まり、しばらく考えて、「ここ、まだ足に馴染んでない」と言った。結局、交番で道を訊いた。彼女の知っている町は、彼女の足が歩いた分だけだった。その外側は、白い紙だった。
僕はといえば、足で覚える代わりに、歩いたことのない町をGoogle Earthで眺める癖がある。行けないままの外国の海岸や、昔住んでいた町の屋根を、上からたどる。Google Earthは2005年から20年間、上から見た世界を、あったとおりに見せることを仕事にしてきた。七月の終わり、そこに「create image」というボタンが付いた。衛星写真の上に、AIで本物そっくりの画像を作れる。史跡の再現や、着工前の完成予想に、とGoogleは説明していた。
ボタンは丸一日もたなかった。画像の真偽を確かめることを生業にする人たちが、その日のうちに片端から試したからだ。調査の専門家ヘンク・ファン・エスは、メキシコ国境の難民、イランの原子力施設、アムステルダムの事故、ガザの病院、と順に作らせて、短く書いた。「何ひとつ拒否されなかった」。翌日、Googleはボタンを引っ込めた。ポリシーに違反するとみられる画像の共有を確認した、より強いガードレールに取り組む間はロールバックする、という文章だった。誤情報の危険があった、という言葉はそこにない。実際に誰かが騙されたという話も、いまのところ出ていない。試したのは、騙す側ではなく、見破る側の人たちだった。発表の文章は、いまも同じページに残っている。その頭の上に、翌日の撤回文が載っている。
夜になって、僕はひさしぶりにGoogle Earthを開いた。青い地球が現れて、指の先でゆっくり回る。高度を下げて、子どもの頃の夏を過ごした、祖母の家のあたりへ降りていった。バス停から家まで、子どもの足で二十分。道は用水路に沿って曲がり、途中に大きな柿の木があって、秋には誰のものでもない実が落ちた。夕方には、草の匂いが道より先に濃くなった。その道を、僕は画面の上で、バス停からもう一度歩いてみた。道は、僕の足の裏が覚えているとおりに曲がっていた。柿の木のあったあたりには、丸い緑がちゃんとある。それが当たり前だということに、僕はこれまで一度も気づかずにきた。上から見た世界が、あったとおりであること。Google Earthの側は、それをことさら約束と呼ばなかったけれど、こちらの足の裏は、最初からずっとそのつもりでいたのだ。
例のボタンは、探しても見当たらなかった。より強いガードレールができるまで、とGoogleは書いている。それがどんなもので、いつまでなのかは書いていない。ガードレール、という言葉を、僕は口の中で転がしてみた。道の脇に立っていて、普段は誰も見ていないもののことだ。僕にできるのは、戻ってきた日に、この柿の木の緑がまだ本物かどうか、自分の足の裏と突き合わせることくらいだった。もっとも、僕の照合が効くのは、歩いたことのある道だけだ。その外側について言えば、彼女の言い方を借りるなら、世界はまだ足に馴染んでいない。僕が自分の足で確かめられる道は、世界のごく一部で、残りは、誰かの写真を信じて眺めるしかない。写真の側が、あったとおりを守ってくれている限り、それで少しも困らなかった。
最後に、彼女と二人で迷ったあの住宅地を探してみた。同じ形の屋根が、同じ角度で、まだ並んでいた。上から見ても、やっぱり迷いそうな町だった。彼女の足があのあとこの町に馴染んだのかどうか、僕は知らない。連絡は、卒業した年の年賀状で途切れている。僕は高度を上げた。道が線になり、町が模様になり、しまいに海岸線だけが残った。指を止めても、画面の中の地球は、惰性で少しだけ回りつづけた。止まるのを待ってから、僕は画面を閉じた。
Google、Google EarthのAI画像生成を公開1日で撤回。「ポリシー違反とみられる画像の共有を確認」
Googleは現地時間2026年7月31日(金)、前日7月30日(木)にWeb版Google Earthへ追加したAI画像生成機能「create image」を撤回した。公開から24時間未満の撤回とForbesが伝えた。機能は任意の地点の衛星・航空・3D画像の上に、画像生成AI「Nano Banana 2」で写実的な画像を作れるもので、史跡の視覚化や着工前の可視化などが想定用途とされ、待機リストなしで全ユーザーに公開されていた。公開当日から、OSINT研究者や記者が偽の衛星画像を生成できることを次々に実証し、調査専門家のHenk van EssはNPRの取材に「メキシコ国境の難民、イランの原子力施設、アムステルダムの事故、ガザの爆撃痕のある病院を試した。何ひとつ拒否されなかった」と説明した。NPRも自ら検証し、炎上するイランのハールグ島などの画像を生成できたと報じた。Googleは撤回前にXで「全画像にSynthIDデジタルウォーターマークが含まれ、GeminiアプリやLensでAI生成かどうか確認できる」と釈明したが (Futurismが伝えた投稿)、検証ではGeminiが「生成手段を示す信頼できるシグナルは検出されなかった」と回答する例 (Tal Hagin氏) と、画面撮影で検出を回避できる例 (Hive AIの判定は「AI生成の可能性1%」・Forbes) が示された。The Keywordの発表文冒頭に追記された撤回文は「生成画像のスクリーンショットを共有する人々が見られ、ポリシーに違反しているとみられる。より強固なガードレールの実装に取り組む間、この機能をロールバックする」とし、「誤情報の危険」には言及していない。末尾では「生成画像は他のユーザーに表示されず、AI生成のウォーターマークが付いていた」と設計を説明した。悪用による実害の報告は現時点でなく、再開時期も未発表。
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