小さな図書館の「AIを避ける」講座に70人。ふだんのパソコン教室は12人
小さな図書館の「AIを避ける」講座に70人。ふだんのパソコン教室は12人【2026年8月】

米国メイン州のバンゴー公共図書館が2025年秋に始めた1時間の講座「Avoiding AI」に、対面とライブ配信あわせて約70人が参加した。担当した司書がふだんひらくパソコン入門系の講座は、約12人です。中身は、設定画面をプロジェクタに映しながら端末のAI機能を一つずつ切っていく手順の実演。2026年7月25日(土)にTechCrunchがこの動きを報じ、南フィラデルフィアの図書館でも同種の講座がひらかれていると伝えました。記事が名前を挙げているのは2館だけで、全国の館数を示す数字はどこにもありません。本記事は、発案者の司書自身が学術誌に寄せた記事 (全文公開) と報道、米国の調査機関Pew Research Centerの調査で確認できる範囲に絞り、何が起きているのか、そして日本の端末では何が切れて何が切れないのかを整理します。
この記事のポイント
- メイン州バンゴー公共図書館の1時間の講座「Avoiding AI」に、対面とライブ配信あわせて約70人。発案者がふだんひらくパソコン入門系の講座は約12人。地元紙によれば対面は30人で締め切られ、キャンセル待ちが出た
- 実名で開催が確認できるのは2館。TechCrunchのリード文は「全米の図書館で」だが、記事本文に館数の裏づけはない。広がりはいまのところ、学術誌・メール・ウェビナー・ポッドキャストという司書コミュニティ内部の経路を通っている段階
- 2人の司書は同じことを言っていない。南フィラデルフィアの司書は「デジタルリテラシーを前に進め、自律を取り戻す手助け」と語り、メイン州の司書は寄稿で「技術に中立はない」と書く。ひとまとめにすると、どちらかを誤って描くことになる
- Pewでは米成人の61%が「AIの使われ方をもっと制御したい」と答え、「制御できている」は13%。事例の数字は小さいが、その背景にある不足感は全国規模で測られている
- 日本で「AIを切る」は一律の操作ではない。Apple IntelligenceもGmailのスマート機能も設定で切れる (Gmailは日本が初期状態でオフの地域)。しかしGoogle検索の「AIによる概要」をアカウント単位でオフにする公式設定は、2026年8月1日(土)時点で存在しない
何を教えている講座なのか
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 講座名 | Avoiding AI (AIを避ける) |
| 発案 | Hannah Cyrus (バンゴー公共図書館 デジタルメディア司書) |
| 開始 | 2025年秋 |
| 長さ | 1時間 |
| 参加者 | 対面とライブ配信あわせて約70人 (本人記述)。TechCrunchは最初の2回それぞれ約70人と報じている |
| 通常の講座 | 約12人 (発案者が担当するパソコン入門系の講座) |
| 追随 | 南フィラデルフィアの図書館 (Charlie Bailey)。記者が取材した回は室内に20人強、初回が定員超過で2回目を追加 |
TechCrunchが伝える南フィラデルフィア版の構成は3段階です。AIチャットボットの仕組みの概説、なぜ使うのか / なぜ使わないのか、そして主要なプラットフォームと端末を順に回りながら、プロジェクタに設定画面を映して手順を実演する。名指しで挙がっているのはApple Intelligenceの無効化とGoogle Geminiの自動サジェスト停止で、ほかにメールの返信下書きの自動生成、スマートフォンのメッセージ要約機能が挙げられています。固有名が明示されているのは、Apple IntelligenceとGeminiの2つだけです。
メイン州の司書が学術誌に寄せた記事のほうは、講座のスライドではなく司書向けの実践論です。ただし推奨ツールが具体名で並んでいるので、骨格は読み取れます。公共PCにEdgeとChromeしかないならFirefox・Brave・Torを足す。既定の検索エンジンには、プライバシー重視のDuckDuckGoなど4つの乗り換え先を挙げる。広告ブロッカーはEFFのPrivacy BadgerとuBlock Originの2つ。メールはProtonmailを選択肢として示す。姉妹講座として「Data Brokers 101」や「Dump Big Tech」シリーズも挙げられています。
注目したいのは脚注です。uBlock Originを推す理由として、広告でない要素も消せるから、たとえばGmailの画面の右上に出るGeminiのアイコン (AIアシスタントを呼び出す入り口のボタン) を消せる、と書かれています。発案者は、設定では消せないUIがあることを前提にツールを選んでいます。
数字は小さい。比で見ると違って見える
出ている数字は4つです。
| 数字 | 中身 |
|---|---|
| 約70人 | 対面とライブ配信の合算。地元紙によれば対面は30人で締め切られ、キャンセル待ちが出た |
| 約12人 | 発案者がふだんひらくパソコン入門系の講座 |
| 20人強 | 南フィラデルフィアで記者が取材した回の室内 |
| 2館 | 実名で開催が確認できる館の数 |
発案者本人は自館を「小さく、比較的田舎の図書館」と書いています。その館で、ふだん12人の講座に70人。約6倍です。絶対数は小さいままですが、比で見ると振れ幅がわかります。
SNSの反応も同じ扱いが要ります。TechCrunchの記者は、南フィラデルフィアの図書館アカウントの通常投稿が数十いいね止まりのところ、この講座の投稿には2,000超のいいねと220のシェアが付いたと書いています。いいねの数は受講希望者の数ではありません。当該投稿そのものは、Quotidiaが確認した範囲では特定できていません。
伝播の経路と速さは、事実として書けます。寄稿の公開が2026年3月16日(月)。春にメイン州の司書20人が研修を受け、2026年7月1日(水)には司書向けの全国ウェビナーで発案者が講演、2026年7月23日(木)にポッドキャストへ出演、そして2026年7月25日(土)に全国紙級のテック媒体が報じました。連絡してきたのは司書で、受講者ではありません。その数は「世界中の数十人」で、around the country ではなく around the world です。一般向けの講座として名前が出ているのは、いまのところ2館にとどまります。
2人の司書を、同じ声にしない
南フィラデルフィアの司書の言葉は、TechCrunchの引用ではこうです。「司書として、これはデジタルリテラシーを前に進め、AIツールを使いたいかどうかについて人々が自律を取り戻す手助けだと考えることが重要だと思う」。動機についても「求めてもいないAIツールが、急に生活のあらゆる場所にある」という苛立ちに触発された、と語っています。語られているのは、使うかどうかを自分で決められる状態の回復です。
一方、メイン州の司書が学術誌に書いた文章は、もっとはっきり立場を取っています。記事の芯にあたるのは次の一文です。
> 価値観に基づく組織として、図書館は、技術の採用を助けるのと同じだけ、その拒否を助ける役割がある。
この寄稿には「技術に中立などない」「これは政治的すぎるのではないかと同僚に問われたが、私たちが掲げた価値観に沿った仕事だ」という趣旨の記述があり、「技術嫌いの講師 (tech-hater-as-instructor) であることが、利用者との連帯を作ってきた」とも書かれています。
「司書たちは中立だ」と要約すると発案者を穏健化しすぎ、「司書たちはAIに反対している」と要約すると南フィラデルフィアの司書を過激化しすぎます。2人は別々に引用するほうが正確です。なお講座の名前も「Avoiding AI」(避ける) であって「Against AI」(反対する) ではありません。
参加者が求めていたのは、手順だけではなかった
寄稿の締めくくりに、匿名の受講者の逸話が置かれています。
講座のあと、ある受講者が発案者に告げに来た。職場でAIの有効性と倫理に疑問を持っているのは自分だけだと感じていた、と。講座で仕組みを学び、同じ懐疑を持つ人で埋まった部屋を見たことで、自分の判断への確信を取り戻し、職場で懸念を口に出せるようになった。
寄稿には、講座の終わりに参加者から拍手が起きた、とも書かれています。設定手順の講座で起きることとしては、やや不釣り合いな反応です。拍手も、匿名の受講者の逸話も、報道の要約ではなく当事者が自分で書いている一次の記述です。人が集まったのは、設定の場所を教わるためだけではなかった。そう読める材料が、当人の筆で残っています。
61%と13%。制御したい側と、できている側
同じ時期の全国規模の調査には、これと地続きに読める数字があります。Pew Research Centerが米成人5,023人に実施した調査 (2025年6月9日から15日) では、61%が「自分の生活でAIがどう使われるかについて、もっと制御したい」と答えました。2024年から6pt上昇しています (ptは%の値どうしの差)。
一方で、実際に制御できているかを聞くと、「かなり / 相当ある」は13%。「あまりない / まったくない」が57%でした。
もっと制御したい61%に対して、制御できている13%。この48ptのギャップは、講座の参加者数を説明するものではありませんが、講座が置かれている土壌の広さを示します。別の調査 (2026年3月12日(木)公表) では、AIについて期待より懸念が上回ると答えた米成人が50%、懸念より期待が10%、同程度が38%。懸念側は2021年の37%から13pt上がっています。
日本で「AIを切る」はどこまでできるのか (2026年8月1日(土)時点)
日本の端末でも同じことができるかというと、答えはレイヤーによって違います。実務でいちばん効いてくるのが、この違いです。
| レイヤー | 例 | 切れるか |
|---|---|---|
| 端末のOS | Apple Intelligence / Windows Copilot | 切れる。Apple Intelligenceは設定から「Apple IntelligenceとSiri」を開き、最上部のトグルをオフ。Windowsは Pro / Enterprise なら組織の管理者向けの一括設定 (グループポリシー) で切れる。家庭向けの Home には、これを切る公式の設定がない |
| アプリのアシスト機能 | Gmailのスマート機能 | 切れる。設定からすべての設定を表示、全般、スマート機能。しかも日本はEEA (欧州経済領域)・スイス・英国と並んで初期状態でオフの地域だとGoogleの公式ヘルプに明記されている |
| サービス側が押し出すAI | Google検索の「AIによる概要」/ AIモード | 切れない。アカウント単位でオフにする公式設定は存在しない。検索ごとにウェブタブへ切り替える、URLにパラメータを足す、ブラウザ拡張を使う、といった回避策はあるが、いずれも毎回の操作か第三者製ソフトが要る |
米国の司書がプロジェクタで設定画面を1つずつ回っていく形式を取っているのも、この構造と地続きです。「AIを切る」は1回の操作ではなく、レイヤーごとに別々の場所を探す作業になります。
読むときの注意が3つあります。
- 手順は陳腐化します。発案者自身が脚注で、設定項目はアプリやOSの更新で常に変わるので、リストの中身を頻繁に確認し直すよう勧めています。上の表は2026年8月1日(土)時点の整理です
- 「AIを切る = プライバシーが守られる」ではありません。寄稿の主眼はデータブローカー (個人データを集めて売買する業者) と監視インフラ側にあり、端末のAI機能をオフにすればデータ収集が止まる、とは書かれていません
- 「日本はGmailが初期状態でオフ」は「日本はAIを押しつけられていない」を意味しません。Google検索のAIによる概要は、日本でも切る設定がありません
日本に同種の講座はあるか
Quotidiaが探した範囲では見つかりませんでした。探した範囲は、国立国会図書館の刊行物「カレントアウェアネス」、総務省の事業、複数自治体 (鹿嶋市・新座市・相模原市・堺市) の講座案内です。全国を網羅したわけではありません。
見つかったものは、すべて「どう使うか」側にありました。総務省の「生成AIはじめの一歩」は初心者向けの無償教材で、仕組みと活用方法と注意点を扱います。高齢者向け講習を全国6,000か所超で展開したデジタル活用支援推進事業は、マイナポータルやe-Tax、オンライン診療、スマホの基本操作が中心で、2026年3月31日(火)をもって終了しました。相模原市のように独自のシニア向けスマホ教室を続けている自治体もありますが、扱うのは撮影・LINE・セキュリティ・防災です。東京都教育委員会が2025年12月24日(水)に公開した生成AIリテラシー教材も、児童生徒が効果的に使うためのものです。
米国では市民側から使わない手助けを求める人が現に集まっている一方で、日本では「使い方を教える」公的事業が幕を下ろした。この並置は成立しますが、因果でも優劣でもありません。日本の公共側に「使わない選択肢の実装手順」を教えるプログラムが見当たらない、という事実の指摘にとどめます。
まとめ(FAQ)
Q. この講座は全米の図書館に広がっている?
A. 報道のリード文はそう読める書き方ですが、実名で開催が確認できるのは2館です。記事本文に館数の裏づけはありません。発案者に連絡してきた司書は「世界中の数十人」で、いまは司書コミュニティの内部を伝播している段階です。
Q. 毎回70人が集まっている?
A. 違います。発案者本人の記述は「対面とライブ配信あわせて70人」で、TechCrunchは最初の2回それぞれ約70人と報じています。対面の定員は30人で、キャンセル待ちが出ました。恒常的に毎回70人ではありません。
Q. これはAI反対運動?
A. 講座名は「Avoiding AI」(避ける) です。南フィラデルフィアの司書が語っているのは、使うかどうかについての自律の回復です。一方でメイン州の司書は寄稿で「技術に中立などない」と明確に立場を取っています。2人を同じ声にまとめないでください。
Q. 日本の端末でも同じ手順でできる?
A. レイヤーによります。Apple IntelligenceもGmailのスマート機能も設定で切れます。しかしGoogle検索の「AIによる概要」をアカウント単位でオフにする公式設定は、2026年8月1日(土)時点で存在しません。
Q. 日本の図書館でも同じ講座をやっている?
A. Quotidiaが探した範囲 (国立国会図書館のカレントアウェアネス、総務省の事業、複数自治体の講座案内) では見つかりませんでした。全国を網羅した調査ではありません。
Q. AIを切ればプライバシーは守られる?
A. そうは書かれていません。寄稿の主眼はデータブローカーと監視インフラ側にあり、端末のAI機能をオフにすればデータ収集が止まる、という記述はありません。
Quotidia の視点
Quotidiaがこの件で見ているのは、70人という数字ではありません。メイン州の司書が、自分の職業倫理をどちら側に置いたか、です。新しい道具の使い方を教える窓口なら、行政にも民間にもいくらでもあります。使わないという選択のほうを、手順の粒度まで落として教える公共の窓口は、Quotidiaが調べた範囲では見当たりませんでした。メイン州の司書は、後者も自分たちの仕事だと寄稿で言い切りました。ここには賛否が割れる余地があります。図書館は中立であるべきだという立場から見れば、踏み込みすぎに映るはずです。実際、本人も政治的すぎないかと同僚に問われたと書いています。それでも、制御したいという側の数字は全国規模で測られています。もっと制御したいが61%で、できているが13%。この差を埋める窓口を、Quotidiaは市場にも行政にも見つけられていません。切り方を教えるのに1時間かかること自体が、切り方が自明でない証拠です。日本で同じ講座をひらいたら、端末とアプリの設定までは順に進んで、検索が押し出してくるものの前で止まります。止まったところまでが、いまの日本の可動域です。
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涼み処の午後

小学校の五年生だった夏、僕は毎日、市営のプールに通っていた。四十五分泳ぐと笛が鳴って、その回の全員が水から上がる決まりだった。監視台の下のコンクリートに、名前も知らない子どもたちと並んで座り、十五分のあいだ何もしないで待つ。口をきいた覚えはない。それでもあの十五分のほうを、泳いでいた四十五分よりはっきり覚えている。濡れた背中がどういう順番で乾いていくかまで覚えている。
今年の夏、僕の部屋のエアコンは風が生ぬるい。修理に来た人は、部品は来月ですね、と言って帰っていった。それで昼のいちばん暑い時間になると、買うものがなくても駅前のスーパーの二階へ上がる。衣料と日用品の売り場の奥に休憩コーナーがあって、市が夏のあいだだけ涼み処に指定している。入口に札が出ている。丸いテーブルが四つ。椅子は床に固定されていて、座面だけが回る。
三日通ってわかったのは、窓ぎわのテーブルだけ脚に紙が噛ませてあることと、それでもまだ少し揺れることだった。直された気配はない。
四日目に、隣のテーブルの年配の女性が、凍らせたペットボトルを立てた。ボトルはすぐに汗をかいて、下に敷いた紙ナプキンが貼りついた。
「ここが好きなんです。うちのより涼しいので」。座面がわずかに回った。
上りの動線の正面に、市のチラシを差す棚がある。スマホ教室の案内が出ていた。写真の送り方、地図の見方、無料の通話のかけ方。定員二十名、申し込みは市役所の窓口で。
「使い方は教えてくれるんですよね」。彼女はチラシを一枚抜いて、また棚に戻した。「やめ方は、誰も教えてくれない」
僕はアメリカの話をした。メイン州の小さな図書館の司書が、去年の秋から一時間の講座をひらいている。名前は「Avoiding AI」、AIを避ける、という意味だ。携帯やパソコンにあとから入ってきたAIの機能を、設定の画面をプロジェクタに映して、上から一つずつ切っていく。それだけの一時間に、会場と配信をあわせて七十人が来た。その図書館がふだんひらいているパソコンの教室は十二人くらいだと、司書自身が書いている。
「七十人」と彼女は言った。その数だけを、もう一度。「その人たち、たぶん、みんな別々に来たんでしょうね」
天井の吹き出し口から、冷たい風が僕の首の後ろに落ちてきた。
丸いテーブルは、四つとも埋まっていた。
次の日、彼女は携帯をテーブルに置いて、画面がこちらから見える角度に傾けた。
「切り方、わかりますか」
彼女が触れても、画面は二度、何も返さなかった。三度目でようやく開いた。
文章の続きを勝手に書いてくれる機能。届いたメッセージを短くまとめてくれる機能。メールの返事の下書きを先に作っておいてくれる機能。彼女が一つずつ、右から左へ倒していく。倒すたびに小さな音がした。
「先週、これ、もう一つ下にありました」。彼女は画面を上へ戻した。「場所が動くんです」
そのころには、隣のテーブルにいた三人が、立ったままこちらへ来ていた。椅子が床から動かないので、みんな立って覗き込んでいる。誰も呼んでいない。
「うちのも同じ画面ですか」と一人が訊いた。
「機種によります」と僕は答えた。実のところ、よくは知らなかった。
訊いた人が自分の携帯を出して、同じ画面を探した。名前は同じでも、並びが違っていた。
彼女は袋から飴を出して、僕にも一つくれた。夏なのに、生姜の味がした。
最後に、彼女がGoogleの検索を開いた。言葉を入れると、結果の並びの上に、答えらしきものが先に出てくる。あれを消したい、と彼女は言った。
設定を端から端まで見た。四人で見た。「検索」という名前のついた項目はいくつもある。開くと、履歴を消す話になったり、地域を選ぶ話になったりする。似た名前を三つ開いて、三つとも違った。後ろから、さっきのと同じですよ、と声がした。彼女の指が、もう一度上から順に下りていく。項目がない。切る場所そのものが、どこにもなかった。
一人が、市役所の窓口で訊いてみたらどうかと言った。窓口が受けているのはスマホ教室の申し込みで、たぶんこの話は扱っていない。
市営プールの帰り道、耳に入った水が半日抜けないことがある。首を傾けても片足で跳ねても出てこないのに、坂の途中で急に、たぷん、と鳴る。
「ないですね」と僕は言った。
「ないんですね」と彼女が言った。
僕は自分の携帯でも同じところまで行って、同じところで止まった。
彼女は携帯を裏返して置いた。それから、ボトルの下に貼りついた紙ナプキンを、端からゆっくり剥がした。
図書館の「AIを避ける」講座に人が集まっている。メイン州の1館で約70人、ふだんの講座は約12人
米国メイン州のバンゴー公共図書館が2025年秋に始めた1時間の講座「Avoiding AI」に、対面とライブ配信あわせて約70人が参加した。担当する司書がふだんひらくパソコン入門系の講座は、約12人。講座の中身は、設定画面をプロジェクタに映しながら、スマートフォンやパソコンに載っているAI機能を一つずつ切っていく手順の実演で、名指しで挙がっているのはApple Intelligenceの無効化とGoogle Geminiの自動サジェスト停止、メールの返信下書きの自動生成、メッセージ要約機能。2026年7月25日(土)にTechCrunchが報じ、南フィラデルフィアの図書館でも同種の講座がひらかれていると伝えた。ただし実名で開催が確認できるのは2館で、全国の館数を示す数字はない。参加者数についても、発案者本人の記述は「対面とライブ配信あわせて70人」であり、地元紙によれば対面は30人で締め切られキャンセル待ちが出た。報道に登場する2人の司書は同じ声ではない。南フィラデルフィアの司書は「デジタルリテラシーを前に進め、AIツールを使いたいかどうかについて人々が自律を取り戻す手助け」と語る一方、メイン州の司書は学術誌への寄稿で「技術に中立などない」と書き、価値観に基づく組織として図書館は技術の採用を助けるのと同じだけその拒否を助ける役割があると述べている。寄稿は2026年3月16日(月)公開で全文が公開されており、講座後に「職場でAIの有効性と倫理に疑問を持っているのは自分だけだと感じていた」と告げに来た受講者の逸話が匿名で記されている。背景として、Pew Research Centerの調査 (米成人5,023人・2025年6月9日から15日) では61%が「AIの使われ方をもっと制御したい」と答えた一方、「制御できている」は13%にとどまる。日本の端末では、Apple IntelligenceもGmailのスマート機能も設定でオフにできる (Gmailは日本が初期状態でオフの地域) が、Google検索の「AIによる概要」をアカウント単位でオフにする公式設定は2026年8月1日(土)時点で存在しない。日本で同種の講座は、Quotidiaが探した範囲 (国立国会図書館のカレントアウェアネス、総務省の事業、複数自治体の講座案内) では見つからなかった。
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