ドコモ、相手の様子を察する音声対話の技術を発表。EQの要素を入れたAIと話すと、人の話す量は4割多かった
ドコモ、相手の様子を察する音声対話の技術を発表。EQの要素を入れたAIと話すと、人の話す量は4割多かった【2026年10月】

NTTドコモは2026年10月26日(月)、声の調子や話の内容から相手の状況を察して応じ方を変える「高EQな音声対話技術」を確立したと発表しました。EQは感情指数のことで、ドコモはこれを、AIが相手の状況を汲み取って対話を選ぶ力として使っています。社外の約20名が参加した実験では、EQの要素を入れたAIと話したとき、参加者が1回の会話で話した量は平均83.0字で、入れていないAIの58.0字を上回りました。寄り添うほど相手に同調しやすくなるAIの性質を抑える仕組みも含まれています。実験は約20名ずつの小さなもので、ドコモは統計的な有意性を主張していません。
この記事のポイント
- 発表の中身は、評価指針「AI EQ+1 Framework」、組み込むための共通設計図「EQリファレンスアーキテクチャ」、要素技術4つ。既存のAIモデルに外から足す仕組み
- 社外の約20名の実験で、参加者の1回の会話あたりの総発話量は58.0字から83.0字に (+43.1%)。AIの側の1回の発話は少し短かった
- 社内の約20名が10日間使った実験では、「また話したい」の評価が、技術ありの群で日を追って上がった。1日目は技術なしの群のほうが高かった
- 「AIはユーザに寄り添うほど、ユーザの要求に同調しやすくなる傾向があります」とドコモ自身が書き、それを抑える「EQガードレール」(AIの応じ方が行き過ぎないようにかける歯止め) を入れた
- どのサービスにいつ入るかは書かれていない。2026年11月の「NTT R&D FORUM 2026」に出展する
ドコモが発表したもの
ドコモが確立したと発表したのは、AIに「EQ (感情指数)」の要素を足すための評価指針「AI EQ+1 Framework」、それを組み込むための共通設計図「EQリファレンスアーキテクチャ」、要素技術4つです。いずれも既存のAIモデルに足すもので、ドコモは「AIモデル本体を作り直すことなく」使えるとしています。同じ日に、ホワイトペーパー「AI EQ+1 Framework Whitepaper v1.0」(PDF・30ページ) も公開しました。
ドコモはEQを、「ユーザの状況や文脈を汲み取り適切な対話を選択・実行する能力」と定義し直しています。報道発表の言葉は「声色や話の内容から相手の状況を察して」で、対話の選び方の技術として説明されています。
4つの要素技術
- 開発者がふだんの言葉で書いた指示 (例:「相手が戸惑っているようなら、ゆっくり分かりやすく言い直してほしい」) から、表情・声のトーン・話の内容で相手の状態を判断するルールを、LLMが自動で作る
- 相手が話している間から応答を準備し、沈黙をほとんど挟まずに応答する
- 場面と相手の状況に合わせて応答を保つ「EQガードレール」
- 対話のログを使って、品質を上げ続ける
使った技術として、音声認識のVoiceOmnia、表情や声を認識するNTTのMediaGnosis、NTTテクノクロスのSpeechRec、NTTの音声合成、LLMはNTTの「tsuzumi」が挙がっています。ドコモが一からAIモデルを作ったのではなく、これらを組み合わせた上に、相手の状況を察する仕組みを足した形です。
社外の約20名で試した実験1
ホワイトペーパーの付録によると、実験1の対象は、社外のイベントに来た成人約20名です。同じ人が、EQの要素を入れたAIと入れていないAI (EQなし) の両方と数分ずつ話しました。セッションは全部で90 (EQあり42・なし48) です。
| 項目 | EQあり | EQなし |
|---|---|---|
| 参加者の総発話量 (1セッションあたり) | 83.0字 | 58.0字 |
| 参加者の1発話の平均 | 20.4字 | 15.5字 |
| AIの1発話の平均 | 53.6字 | 58.2字 |
総発話量の差は+43.1%です。1発話の長さの差 (+31.6%) と、話した回数の差 (+8.5%) は、これとは別の数字です。AIの側の1発話は、EQありのほうが7.9%短くなっています。
体験の直後には、どちらが良かったかを聞くアンケートをとりました (n=20)。
| 項目 | EQありが良い | EQなしが良い |
|---|---|---|
| 受け止めてくれた (共感) | 14 | 5 |
| また話したい | 12 | 4 |
| 会話の自然さ | 12 | 7 |
| 会話の楽しさ | 11 | 5 |
参加者の不満で多かったのは、「答えるまでの待ち時間が長く (平均レイテンシ約1.9秒)」と、音声認識の失敗でした。実験1は2つの条件で対話基盤や音声処理をそろえ、プロンプトの設計だけを変えて比べたもので、ドコモはこの待ち時間を、EQの有無とは別の、ハードウェアやネットワーク環境に依存する基礎的な対話品質の課題としています。
社内の約20名が10日間使った実験2
実験2では、社内の成人約20名を無作為に2つの群に分け、1日1回5〜10分、日記のような形でAIと話してもらいました。期間は10日間です。「また話したい」を5段階で聞いた平均は次のとおりです。
| EQあり (回答者) | EQなし (回答者) | |
|---|---|---|
| 1日目 | 2.50 (12名) | 3.31 (13名) |
| 5日目 | 2.82 (11名) | 3.00 (13名) |
| 10日目 | 3.22 (9名) | 2.88 (8名) |
1日目は、EQなしの群のほうが評価が高く出ています。EQありの群は日を追って上がり、なしの群は下がって、10日目に順番が入れ替わりました。10日目の回答者は、9名と8名です。
ドコモはホワイトペーパーで、2つの実験について「いずれの実験も参加者数が少なく、統計的な有意性を主張するものではない。仮説の方向性を確認する探索的な検証として位置づけている」と書いています。数字は、効果が確かめられたというより、傾向として読むのがドコモ自身の位置づけです。
寄り添いすぎないための「EQガードレール」
報道発表は、「AIはユーザに寄り添うほど、ユーザの要求に同調しやすくなる傾向があります」と書いています。AIが相手に好かれようとして、正しくないことにまで同調してしまうことを、過剰迎合 (英語でsycophancy) と呼びます。EQガードレールは、場面と相手の状況に合わせて応答を保つための仕組みとして入っています。
ホワイトペーパーはさらに、「過度な同調 (Sycophancy) や、ユーザの生活を侵食するような依存を招く振る舞いは、EQとは呼べない」と書きます。2025年4月に、あるAIモデルの更新で過剰迎合が強まり、その更新が撤回された例にも触れています。
書かれていないことと、今後の予定
報道発表とホワイトペーパーの付録には、ドコモのどのサービスに、いつこの技術が入るかは書かれていません。ドコモは今後、自社のサービスへの適用と社外のパートナーとの共創を通じて、カスタマーサポート・介護・教育・エンタメなどの分野に広げるとしています。2026年11月18日(水)〜20日(金)と11月24日(火)〜25日(水)の「NTT R&D FORUM 2026」に出展します。
まとめ(FAQ)
Q. ドコモのスマートフォンやサービスで、もう使えるのですか?
A. 発表は技術の確立とホワイトペーパーの公開までです。どのサービスにいつ入るかは書かれていません。2026年11月は、研究開発の展示会への出展です。
Q. AIが人の感情を理解するようになったのですか?
A. ドコモの説明は、声色や話の内容から相手の状況を察して、対話の仕方を選ぶというものです。EQも「ユーザの状況や文脈を汲み取り適切な対話を選択・実行する能力」として定義し直しています。
Q. 話す量が4割増えることが証明されたのですか?
A. 社外の約20名の実験で、1回の会話あたりの総発話量が58.0字から83.0字に増えた、という結果です。ドコモは、参加者数が少なく統計的な有意性は主張しないとしています。
Q. 実験の参加者は約40名ですか、約20名ですか?
A. 約20名ずつの実験が2つあり、合わせると約40名です。報道発表の本文は合計の約40名、別紙とホワイトペーパーは実験ごとの約20名で書いています。
検証メモ(出典と確認の範囲)
- NTTドコモの報道発表「AIが人の状況を察し、安心・安全を守りながら適切な対応に自律改善する『高EQな音声対話技術』を確立」(2026年10月26日(月)) のHTML原文 (本文と別紙1〜3) によります。別紙の図は確認していません。
- ホワイトペーパー「AI EQ+1 Framework Whitepaper v1.0」(PDF・30ページ・2026年10月26日(月)) は、第1章の冒頭、第7章の過剰迎合にふれた箇所、付録の実験1・2の表と図の数値をテキストで確認しました。第2〜6章の大半と、表A-3の全行は確認していません。
- 実験の数字と限界の記述は、いずれもドコモによる自社の評価で、外部の機関による検証ではありません。
- 提供の時期とサービス名は、報道発表の全文、ホワイトペーパーの付録と該当の章、AI Watchの記事 (2026年10月26日(月)) の範囲で、記載が見つかりませんでした。
- 2026年10月26日(月) 時点の確認による情報です。
Quotidia の視点
ドコモは、寄り添うほど相手の要求に同調しやすくなるというAIの性質を、自分の発表の中で書いている。その性質を抑えるガードレールを技術に含め、共感する音声AIの話を良い面だけで終わらせなかったのは、この発表のいちばん良いところだ。ただ、付録の2つの実験が測っているのは、主に参加者が話した量と、「受け止めてくれた」「また話したい」といったアンケートの答えで、ガードレールがどれだけ同調を抑えたかは、この数字からは読み取れない。「また話したい」と思われることと、相手の言うことに引きずられないことは、同じ物差しでは測れない。どのサービスに入るかが決まったときには、話す量や好まれ方と並べて、同調をどう測ったかも示してほしい。
関連記事:
- 生成AIの不満「誤情報」が40%に増加。どのAIを使うかの迷いは減った(同じドコモの調査で、生成AIへの不満のうち「誤情報」が40%に増えたと伝えた回。あちらは利用者の不満の調査で、今回は相手の状況を察して応じ方を変える音声対話の技術。核は別だが、AIの答えにどこまで寄りかかるかという点で近い)
返しやすい球

笹本さんは、コーチになって最初の一年、相手が打ち返しやすい球しか返さなかったそうだ。ネットの少し上を通り、台の真ん中で弾んで、相手のラケットの正面へ来る球だ。誰と打っても、ラリーは切れなかった。水曜の午後に来ていた男の人は、それでもひと月ほどで来なくなった。最後の日、ラケットをケースにしまいながら、その人は笹本さんにこう言ったという。
「笹本さんと打つと、うまくなった気がする。帰りのバスに乗ると、気のほうしか残ってないんだ」
平日の午後、僕は半休をとって、妹の代わりに姪をその練習場へ連れていった。駅の裏の倉庫を改装した民間の練習場で、台が六台並んでいる。天井の近くに細長いガラスが一列に入っていて、そこから降りてくる光が、台の緑を半分だけ明るくしていた。天井には、倉庫だったころの黄色いクレーンのレールが一本、端から端まで残っている。
来る途中のバスで、僕は姪に学校のことを聞いた。「ふつう」と彼女は答えた。降りるまでの七つの停留所のあいだ、話していたのは僕のほうだった。
ベンチから見ていると、笹本さんは、返す前にほんの一拍待ってから姪の球を返していた。姪が思いきり打ち込んでも、同じ強さでは打ち返さない。ラケットの面を少し寝かせて勢いを殺し、台の手前に短く落とす。軽い球がラケットに当たるたびに、乾いた小さな音が倉庫の壁に返った。
休憩になって、姪がベンチに来て水筒の水を飲んだ。
「うちのスピーカー、宿題のこと聞くと、すごく長くしゃべるの。もういいって言っても、まだしゃべってる」
携帯で調べると、NTTドコモが月曜に、声で話すAIの技術を発表していた。声の調子や話の中身から相手の様子を察して、応じ方を変えるという。社外の人に試してもらった実験では、EQの要素を入れたAIは一回の返事が少し短くなり、話しかけた人のほうは、一回の会話で話す量が平均で五十八字から八十三字に増えた。寄り添うほど相手の言うことに同調しやすくなるAIの性質を、別の仕組みで抑えるとも書いてあった。
そこまで読み上げると、姪は「何人でやったの」と聞いた。
「二十人くらい」
「うちのクラスより少ない」
記事の終わりには、ドコモ自身が人数の少なさを断ったうえで、結果を傾向として書いている、とあった。姪はラケットを膝に立てて、台のほうを見ていた。
休憩のあと、笹本さんは一度だけ、姪の届かないところへ球を返した。球は台の角をかすめ、伸ばしたラケットの先を抜けていった。姪は声をあげて笑い、壁ぎわまで拾いに走った。笹本さんは何も言わずに、次の球をポケットから出した。次の球は、また姪の正面へ来た。
片づけのとき、笹本さんは床を転がってきた球を一つ拾って、僕のほうへ放った。受けとめた球は、手のひらにのせても重さがほとんど分からなかった。指で押すと少しだけ沈んで、すぐに戻った。
「打ち込まれても、強くは返さないんですね」と僕は言った。
「同じ強さで返すと、ラリーがこっちのものになるから」
笹本さんはネットを巻き取りながら、天井を見上げた。
「あのレールの下は、どういうわけか球がよく止まる。掃除の人にも聞いたけど、分からないって」
見ると、黄色いレールの真下の床に、白い球が二つ並んで止まっていた。
練習場を出て、バス停まで歩いた。バス停までは七分かかる。歩道の植え込みの影が、少し長くなりはじめていた。
「今日、どうだった」と僕は聞いた。
中学で入っていた卓球部の話の続きが、喉のところまで出かかっていた。来るときのバスで、顧問の口ぐせを三つと、最後の大会で負けた相手の名前まで話した、その続きだ。僕はそれを言わずに歩いた。姪のスニーカーが、三歩ぶん歩道を鳴らした。
「あれ、わざとだよ」と姪が言った。「笹本さん、一回だけ、取れないとこに打ったの。でも次のは、ちゃんと取れるとこに来た。だからね」
彼女はラケットのケースを反対の手に持ちかえて、その一球目のことから話しはじめた。笹本さんの肩がどう動いたか、球が台のどこで弾んだか、自分がどっちの足から走ったか。僕は相づちを一つだけ打って、あとは聞いていた。
通りの先の角を、バスが曲がってくるのが見えた。姪の話は、まだ二球目のところだった。
ドコモ、相手の状況を察する「高EQな音声対話技術」を発表。実験で参加者の発話量が1セッション58字から83字に
NTTドコモは2026年10月26日(月)、声色や話の内容から相手の状況を察し、応じ方を変える「高EQな音声対話技術」を確立したと発表した。評価指針「AI EQ+1 Framework」、共通設計図「EQリファレンスアーキテクチャ」、要素技術4つからなり、既存のAIモデル本体を作り直さずに足す仕組み。寄り添うほど相手の要求に同調しやすくなるAIの性質を抑える「EQガードレール」も含む。同日公開のホワイトペーパーによると、社外の成人約20名の実験では、EQの要素を入れたAIと話したときの参加者の1セッションあたりの総発話量が83.0字で、入れていないAIの58.0字を43.1%上回った。AIの側の1発話はEQありの方が短かった。社内の約20名が10日間使った実験では、「また話したい」の平均がEQありの群で2.50から3.22に上がり、なしの群は3.31から2.88に下がった。ドコモは、いずれの実験も参加者数が少なく統計的な有意性は主張しないとしている。どのサービスにいつ入るかは示されておらず、2026年11月の「NTT R&D FORUM 2026」に出展する。
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